想像力のない人

想像力のない人っている。

ここで言う"想像力"というのは、何も「今まで誰も思いつかなかったようなアイデアを見出すことが出来る」だとか、「突飛な発想で世間に新たな風を巻き起こす」だとか、そういうユニークスキルのことではない。 もっと社会生物としての根源的な部分の話。

たとえば、そうね。あなたが牛丼屋に友人と行ったとしよう。松屋でも吉野家でもいい。 あのセルフサービスの箸があなたが座った席側にあったとき、特に誰かに言われたわけでなくても相手の分の箸も用意すると思うんだ。
これって、「もし自分が相手の立場だとしたら箸を取ってくれることを期待するだろうな」という想像の果ての行動だと思う。 想像力だなんて大仰な言い方をしたが、"思いやり"と言い換えてもいいかもしれない。 何にせよ、人間は自分本位では生きていけない、はず。
今回はそんな話がしたい。


先の記事では「僕バンドマンなんです〜ヨホホ〜」みたいなこと言ってた気がするけど、基本的にはしがないコンビニ店員をしております、蓮國。
コンビニ店員と言えど、やはり接客業。
「客に話しかけられる」というイベントが発生することだってままある。その日、俺は多少アルコールの香りがするお客様からこんなことを言われた。

「お疲れ様ー!夜勤って大変だよね!俺も昔コンビニでバイトしてたから分かるわー!朝6時まで働くデショ?頑張ってね!!」

正直なところ、代わり映えのしないコンビニエンスな日々を過ごしているとこれぐらいの軽いコミュニケーションは楽しいものだ。
「へぇ、そうなんですか。」
「うんうん、夜勤って暇そうなイメージあるけど意外にやることあって大変だよね。」
「そうなんですよー、僕ももっとラクなもんだと思って始めたのに。(笑)」
緊急性のある仕事もなく、他に客も見当たらないのでそのまま会話に興じていたところ、俺は一つの予言じみた結論を導き出した。

コイツはこの後、「コンビニあるある」を言うだろうな。

そういう類の。

まあ、客と店員という今後交わることない人間同士の一期一会、共通項は「コンビニバイトを経験している」の一点。妥当な線だろう。

「そうそう、コンビニ店員といえばさぁ、」

それ見ろ!来た来た来た来たァ!!
おう見知らぬ旅人よ、その口から思う存分「コンビニ店員あるある」を吐き出すがいいさ。俺とてもう最高の「分かります〜!!!それそれそれェ〜〜〜!!!!」の準備は出来ている。
さあ何でくるかな?「お弁当に箸つけるか聞いただけでブチギレる老害の話」か??それとも「良い客とか悪い客とかいうけど、そもそも一番ムカつく行為は"来店"だよね」みたいな話か??!!
なんだっていいさ、コンビニ店員あるあるbotみたいな擦り切れた文言を吐き出せ!!!さあ!!!!どうだ??!!!?!?!!

「出勤して最初に、パックジュースを出すよねー!」

……。
…………。
いや、絶対にそうではなくない?????

いやさ、全国に何十万といるコンビニ店員が出勤直後ヨーイドンでパックジュースの品出しすると思った????ホントに????
そんなことないだろ、競技か????
なんらかの儀式だろう、そんなん。

総てのコンビニ店員が同時にパックジュースを品出ししたとき、この世に混沌が訪れるだろう。

ヨハネの黙示録にそんなこと書いてあったか?ねえだろよ、その時代にコンビニがないんだから。
嗚呼、なんて想像力のない人。コイツはダメだ、想像力のカケラも持ち合わせちゃいない。

もしもの話にはなるが。

この世にゾンビが現れたとしよう。
コイツは意気揚々と「ゾンビって言ったってさ、頭を潰せば倒せんだよネ」みたいなことを言ってバールの様な物でゾンビに殴りかかるだろう。

でも現実にゾンビが顕われたときにそうとは限らんじゃん?コアは心臓にあるかもしれんし。
そんな時こいつはもう
「なんでェ〜?映画だとこれで倒せてたのにィ〜!!」
って 言いながらゾンビになるしかない。哀れ。

ゾンビに変わり果てた後だって酷い。

他のゾンビ共が頭のタガが外れて常軌を逸した動き(陸上選手が如く美しいフォームで走る、筋肉の限界を超えて異様な跳躍力を発揮する、等)を見せながら襲ってくる間、コイツゾンビは腕を前に突き出しながらふらふら歩くことしかできない。
ゾンビって概念に対する見識が狭すぎるから。

だからコイツは死ぬ。頭を潰せば死ぬ。 弱めのゾンビってこういう奴らなんだろうな。
皆様ももしゾンビと化したら、ゾンビの殻を破って活躍してほしい、そう思う蓮國なのでした。
またね。